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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)3940号 判決 1983年12月23日

原告

善村文彦

被告

奥田一

主文

被告らは各自、原告に対し、金七〇七万一七七六円およびうち金六四七万一七七六円に対する昭和五五年一〇月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を、被告奥田一は原告に対し、金一〇万八三二〇円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告の負担とし、その七を被告ら及び補助参加人の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者及び補助参加人の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告奥田一は原告に対し、金一、一〇二万〇、五四〇円およびうち金一、〇〇二万〇、五四〇円に対する昭和五五年一〇月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を、被告奥田富美子は被告奥田一と連帯して、原告に対し、金一、〇八九万二、二二〇円およびうち金九九一万二、二二〇円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和五五年一〇月二六日午前一一時頃

2  場所 大阪府東大阪市若江南町二丁目九番先路上

3  加害車 普通乗用自動車(大阪五九さ三八九〇号、以下加害車という)

右運転者 被告奥田 一(以下被告一という)

4  被害者 普通乗用自動車(大阪五五え五五四四号・以下被害車という)運転中の原告

5  態様 被害車が前方進路上の障害物との衝突を避けるため停止したところ、後続加害車が追突

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告奥田富美子は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

2  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告一は加害車を運転して進行中、前方不注意、追従不適当、ハンドル、ブレーキ操作不適当の過失により、加害車前部を被害車後部に追突させ、よつて、被害車を運転していた原告及び被害車に後記の損害を与えた。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷

頸椎捻挫症候群、腰椎捻挫

(二) 治療経過

入院(七五日間)

昭和五五年一一月五日から昭和五六年一月一八日まで

通院(実通院日数四三二日)

昭和五五年一一月四日から昭和五七年一一月二二日まで

(右入院期間を除く)

(三) 後遺症

原告は、本件事故による傷害のため、局部に頑固な神経症状を残して、昭和五七年一一月二二日症状固定した。

2  治療関係費

(一) 治療費 四二二万四、九三〇円

原告は、本件事故による傷害のため、前記入・通院治療を要し、合計四二二万四、九三〇円の治療費を必要とした。

(二) 入院雑費 七万五、〇〇〇円

入院中一日一、〇〇〇円の割合による七五日分

(三) 通院交通費 一九万〇、〇八〇円

片道交通費二二〇円の往復運賃四三二日分

3  逸失利益

(一) 休業損害

原告は事故当時四五歳で、個人タクシーを業としており、一日平均一万一、七八三円の収入(売上げ一四三万四、八八〇円÷六六日×所得率五四・二%)を得ていたが、本件事故により、昭和五五年一〇月二六日から昭和五七年八月三一日までの間の二一八日にわたつて休業を余儀なくされ、その間二五六万八、六九四円の収入を失つた。

(二) 将来の逸失利益

原告は前記後遺障害のため、その労働能力を一四%喪失したものであるところ、原告の就労可能年数の範囲内である四年間は右労働能力を喪失したものと考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、二一四万三、五一六円となる。

計算式

1万1,783円×365日×3.56×0.14=214万3,516円

4  慰籍料 四〇〇万円

入・通院慰籍料 二〇〇万円

後遺障害慰籍料 二〇〇万円

5  車両修理費 一〇万八、三二〇円

原告は、自己所有の被害車を修理したが、本件事故による毀損部分の修理のため一〇万八、三二〇円を要した。

6  弁護士費用 一〇〇万円

但し、被告奥田富美子に対する関係では九八万円のみを請求する。

四  損害の填補

原告は、自賠責保険金より治療費として一一七万五、一九〇円、後遺障害について二〇九万円、その他二万四、八一〇円の支払を受けた。

五  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。ただし弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

第三請求原因に対する被告ら及び補助参加人の答弁

一の1ないし4は認めるが、5は争う。

二の1は認める。

二の2は過失の点は認めるが、原告に損害を与えたとの事実は否認する。

すなわち、原告は本件事故以前にも追突事故に遭遇し、本件事故により受傷したとする傷害の部位などは、前回事故と同一のものであつて、本件事故による受傷ではない。

四は認める。

第四被告ら及び補助参加人の主張

仮りに、原告が本件事故により受傷したとしても、前回事故による後遺障害が原告の受傷、治療経過に寄与していたものと考えられるから、損害賠償額の算定にあたり考慮されるべきである。

第五被告ら及び補助参加人の主張に対する原告の答弁

被告ら及び補助参加人主張事実は否認する。

第六証拠

記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

第一事故の発生

請求原因一の1ないし4の事実は、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一〇号証の五ないし一一によれば同5の事実が認められる。

第二責任原因

一  運行供用者責任

請求原因二の1の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告奥田富美子は自賠法三条により、本件事故による原告の傷害による損害を賠償する責任がある。

二  一般不法行為責任

請求原因二の2の事実中、被告一は加害車を運転して進行中、前方不注意、追従不適当、ハンドル、ブレーキ操作不適当の過失があつたことは当事者間に争いがなく、事故の発生は前記第一認定のとおりであり、また、原告において生じた損害は後記第三に認定するとおりであるから、被告一は、民法七〇九条により、原告において生じた本件事故による損害を賠償する責任がある。

第三損害

1  受傷、治療経過等

原本の存在につき争いなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし六、第三、第四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九、第一〇号証によれば、請求原因三1(一)(二)の事実が認められ、かつ後遺症として頸部に頑固な神経症状を残して症状が固定(昭和五七年一一月二二日頃固定)したことが認められる。

2  治療関係費

(一)  治療費

原本の存在につき争いなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三、第四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証によれば、原告は、本件事故により受傷し、昭和五五年一一月四日から昭和五七年一一月二二日まで喜馬病院で治療を受けたが、その間、治療費として少なくとも合計四二二万四、九三〇円を要したことが認められる。

(二)  入院雑費

原告が七五日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日一、〇〇〇円の割合による合計七万五、〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(三)  通院交通費

原告本人尋問の結果によれば、原告は前記通院のため合計一九万〇、〇八〇円の通院交通費を要したことが認められる。

3  逸失利益

(一)  休業損害

原本の存在につき争いなく、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証、成立に争いのない甲第一二ないし第二〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は事故当時四五歳で、個人タクシーの運転手として、一日平均一万一、七八三円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五五年一〇月二六日から昭和五七年八月三一日までの間の二一八日にわたつて休業を余儀なくされ、その間合計二五六万八、六九四円の収入を失つたことが認められる。

(二)  将来の逸失利益

原告の前記の如き年齢及びその職業、前記認定の受傷並びに後遺障害の部位程度によれば、原告は前記後遺障害のため、昭和五七年一一月二三日から少くとも四年間、その労働能力を一四%喪失するものと認められるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、二一四万三、五一六円となる。

4  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、原告の職業、年齢その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は三〇〇万円とするのが相当であると認められる。

5  車両修理費

原本の存在につき争いなく、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六、第七号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、自己所有の被害車の修理を日産大阪タクシーキヤブ販売株式会社へ依頼し、同会社は本件事故による被害車の破損修理を終えたが、右修理のため一〇万八、三二〇円を要したことから、原告は右金員を同会社へ支払つたことが認められる。

第四被告ら及び補助参加人の主張について

被告らは、本件事故が軽微なものであるうえ、本件事故以前にも原告は追突事故に遭遇しており、本件事故により受傷したとするその部位も以前の事故と同一であつて、原告には、本件事故による損害が発生していないし、仮りに損害が発生していても、右損害には以前の事故による後遺障害が寄与していた旨主張する。

そこで検討するに、前掲乙一〇号証の二ないし一一によれば、被告一は、加害車を運転して、被害車後方約五・五メートルの位置に接近して追従停止したのであるから、同車の動静を注視し、同車と安全な車間距離を保つなどして発進すべきであるのに、同車が間もなく進行するものと軽信し、被害車がいまだ発進していないのに、時速約一〇キロメートルで進行した過失により、被害車後方約二・三メートルに至つてはじめて同車が停止しているのを発見し、あわてて急ブレーキを踏むも間にあわず、自車前部を被害車後部に追突させたこと、そのため、加害車はボンネツト先端を凹損し、右前フラツシヤーランプ破損の損傷を受け、フロントグリル、フロントバンバーに擦過痕を残す程度の破損を受け、被害車はトランクを凹損し、左右テールレンズを破損し、リヤーバンパー擦過痕を残す破損を被つたことが認められ、右の如き本件事故の態様、前記傷害の部位、程度を総合すれば、本件事故と原告の前記傷害との間には、因果関係があるものというべく、成立に争いのない乙第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、第六号証の一ないし九、第七号証の一ないし九、第八、第九号証によるも、これを覆すに足りない。

しかしながら、右各乙号証及び証人喜馬通の証言並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和五〇年六月五日大阪府東大阪市において追突事故(以下、前回事故という)に遭い、頸椎捻挫、外傷性頭頸部症候群により、昭和五三年三月一三日まで喜馬病院及び東大阪市立中央病院などにおいて通院治療を受けていたものの、項部痛、頭痛、頸部の運動制限(とくに左への回旋及び側屈制限)、右上肢全体に軽度の筋力低下、右前腕橈側に知覚鈍麻、握力低下、頸椎第五・第六及び第六・第七間に椎間腔の狭少がみられる後遺障害を残して、同日、症状固定したこと、自賠責調査事務所では、原告の右後遺障害を等級表一二級一二号に該当するものと認定し、原告はこれに相当する後遺障害補償をすでに得ていること、ところが、原告は、生活費を得るため、昭和五五年八月二一日より個人タクシーの営業を始め、握力も正常に戻り、体調も自動車の運転に差支えのない程度にまで恢復していたこと、しかしながら、原告は本件事故に遭遇し、前回事故による後遺障害でもあり、また老化現象でもある頸椎第五・第六・第七間の椎間の狭少化が主因となつて、通常の患者に比し、原告の治療が長期化し、症状も重かつたことが認められ、右事実によれば、原告は、前回事故による後遺障害のうち、頸椎第五・第六及び第六・第七間の狭少化による神経症状は本件事故当時においてはすでに鎮静化していたものと認められるものの、本件事故により、右症状が再発し、これが主因となつて、通常の患者に比し、原告の場合、治療が長期化して治療費、休業損害などの傷害による各損害費目がいずれも増大したことも認められ、原告が受傷した前回事故による後遺障害の症状固定日が昭和五三年三月一三日であつて、本件事故が右固定日より二年七か月経過後の事故であること、原告は、前回事故による右後遺障害として頸部の頑固な神経症状が残存したという認定のもと、後遺障害別等級表一二級一二号に該当する障害補償をすでに得ていることをも考慮すれば、原告の前回事故に基因する右の如き頸椎間の狭少という体質的素因に基づく損害の増大を、被告らに全部負担させることは適切でなく、損害の公平な分担という見地から民法七二二条を類推適用し、原告の本件事故による傷害による損害の二割を減ずるのが相当と認められる。

第五損害の填補

請求原因四の事実は、当事者間に争がない。

よつて原告の傷害に基づく前記損害額合計一、二二〇万二、二二〇円の八割に相当する九七六万一、七七六円から右填補分三二九万円を差引くと、原告の傷害に基づく残損害額は六四七万一、七七六円となる。

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は六〇万円とするのが相当であると認められる。なお、審理経過、認容額等に照すと、本件の場合、原告の物損につき、特に弁護士費用を認めるのは相当ではない。

第七結論

よつて被告一は原告に対し、七一八万〇、〇九六円、およびうち弁護士費用を除く六五八万〇〇九六円、に対する本件不法行為の翌日である昭和五五年一〇月二七日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、被告奥田富美子は原告に対し七〇七万一、七七六円、およびうち弁護士費用を除く六四七万一七七六円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり(なお、被告らの各支払金員のうち、金七〇七万一、七七六円及びこれより弁護士費用を除く六四七万一七七六円に対する遅延損害金は被告らの不真正連帯債務)、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、九四条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井良和)

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